The scene

パクセー便り#3
「ラオス国母子保健統合サービス強化プロジェクト」
へ派遣中の建野技術顧問からのお便り

 

パクセーはラオスで2番目に大きな街で、チャンパサック県の県庁所在地。
プロジェクトの事務所は同県保健局・母子保健課内に置かれています。

カオピニャック



「母子保健統合サービス強化プロジェクト」の事務室は、南部4県の中心的県であるチャンパサック県の県都パクセーにあります。パクセーは、人口約10万人弱で、県都というより田舎町という感じの町です。私が一番驚いたのは、町全体が非常に安全であるということ、町を歩いていても、買い物をしていても、レストランで食事をしていても、全く危険性を感じないこと、盗まれる、騙されるという「雰囲気」すら漂ってこないことです。換金所でも開けっ広げで、道路に面した窓口で札束の手渡しですし、ましてや銃を持った人もいません。二重三重に防御され、銃で守られているブラジルでは全く考えられないことです。ズボンの後ろポケットに財布を差し込み、街中を歩き回っても誰も注意はしてくれません。私にとって、このような経験は長い海外生活の中でも初めてのできごとです。

次に驚くことは、放し飼いの犬たちの多いことと、その犬たちが全く人様に関心を示さないことです。毎日30分位散歩していますが、ほとんどの家が犬を飼っており、軒下や歩道で寝そべっています。道路の真ん中で長々と伸びているのもいます。ときどき通るオートバイや車は、犬様をよけて走り抜けて行きます。事故に遭った犬を今日まで一度も見たことはありません。私も、歩道を歩いて犬様の邪魔をすることはせず、道路を歩くように心がけています。大半の犬たちは狂犬病のワクチンは受けていないと思います。人にいじめられたDNAを持たないパクセーの犬たちは、狂犬病ウイルスに感染すると、ウイルスに命令されて人様に飛びかかるものと思われます。要注意!

町の中で動物は犬だけですが、郊外に出ますと、さまざまな放し飼いの動物たちと出会います。一番多いのは牛で、道路を我が物顔で散策しています。牛たちは、朝から昼間にかけて道路周辺の草を満喫し、夕方には持ち主の家に帰る生活の繰り返しですから、維持管理費用はほとんどかかりません。これらの牛たち十数頭が群れになって道路を塞いでいることがあり、運転手は、ぶつからないように最大限の注意を払って走っています。次いで、鶏、山羊、豚、水牛とあたかも「家畜園パーク」を楽しんでいる雰囲気です。ちなみに、万一これらの動物と接触事故を起こした時は、飼い主の管理不行き届きとのことで、運転手は罰せられたり、補償したりする必要はないとのことですが、接触によって車が破損したり、道路外に飛び出してしまった車によって二次災害が発生したりすることはあります。これに関しては、運転手負担とのことでした。プロジェクトのパイロット県は、このような道を3、4間かけて行くところにあります。ほぼ毎週このような家畜園パークを楽しみながら(?)、プロジェクト活動を行っています。

私のメコン川沿いの散歩コースは、20分、30分、45分、85分とバラエティに富んでおります。その時の気分によってコースを選んでいます。メコン川沿いにはラオス料理の店が並んでおり夜間は賑わっています。明け方は前日の名残(?)で、ゴミだらけです。また、道路横の水溜りや、側溝もむき出しの赤土等で到底清潔とはいえませんが、私にとっては「懐かしきインドシナ半島の生活」です。ちなみに、ラオスでは建物の中に入るときは、汚れを持ち込まないように靴を脱ぐ習慣があり、ビエンチャンの一流ホテルはまだしも、二流、三流では常識化しています。入口で靴を脱ぎ、裸足もしくは靴下履きのままで、室内を歩き回るのですが、足(靴下)の汚れること尋常ではありません。

確かに、パクセーのレストランや店は、一部のホテルの高級(?)レストランを除くと、多くのインドシナ半島の町々がそうであるように「汚い」です。屋台に限りなく近いレストランや店は、清潔好きで、衛生概念を強く教え込まれた日本人にはなかなか馴染めないと思います。

昼食によく行く、事務所近くのカオピヤック屋を紹介し、皆さまに想像してもらいたいと思います。道路に煮炊きの釜が飛び出している横を通って店内の椅子に陣取ります。メニューは2つ。――カオピヤック・センかカオピヤック・カオ。前者は、麺で後者はお粥です。どちらかを注文しますと、まず、氷を浮かせたお茶が大きめのコップで出てきます。次に、いろいろな野菜(もやし、キャベツ、青唐辛子、薬草(?)等)を盛り合わせたお皿が出て、待つこと数分、注文したカオピヤックが現れます。この中に、野菜を手でちぎって入れます。テーブルの上には、肉まん、醤油、赤唐辛子の粉、砂糖が置いてあり、好みに合わせて加えます。

ラオスの人たちは、辛いのが大好きで、もともとのスープもそれなりにスパイシーなのですが、人によっては赤唐辛子で顔を真っ赤にして味わっています。私などはスパイシー派を自負しているのですが、間違って多く入れると、涙と鼻水で悪戦苦闘することになります。私が理解できないのは、多くのラオス人は砂糖をどっさりと入れることです。ラーメンに砂糖、想像できますか?スープは、鳥や魚を長時間かけて調理したもので、店によってその特徴を出しています。私は、魚のほぐした身をよく煮込んだ、ベトナム人が経営する店の味が好きでよく通っています。この店は他に比べると2~3割安く、スープが一杯10,000kip、日本円で110円ぐらいです。

テーブルの下を見ると、トイレットペーパー(テーブルペーパー)の紙屑、食べかす等々が散らばっており、不潔そのものですが、このようなことは、いつの間にか気にならなくなり、カオピヤックの味に惹かれて通うことになります。そもそも、途上国で屋台のようなところで出される氷水を飲み、生野菜を手洗いもしない手でちぎって食べ、衛生に無頓着(?)な調理場で料理されたものを食べ……等々、旅行医学の立場から言うと「禁忌」といっていいことを、私は毎日実践していることになります。そのような生活を送っても、私の体調は何かとストレスの多い日本にいるときよりも快適そのものです。

おそらく、私がトラベルクリニックの医師として相談を受けたら、間違いなく「禁忌」を守るよう指導します。矛盾していると思われるでしょうが、「エビデンス」はあるのです。その理由は、私はインドシナの国ぐにで長く生活しており、私の病原菌に対する免疫機能はラオス人と似ているからです。昔、私の後輩で、ベトナムで長く生活していた者が、スタディツアーの学生たちを引き連れて、彼が以前住んでいた土地に案内し、行きつけのレストランで食事したところ、ほぼ全員が下痢に悩まされ、ツアーを一時中断したことがありました。学生たちに「インドシナの病原菌」に対する免疫がなかったことが原因です。

話は突然「世界」になりますが、その歴史を振り返ってみると、病気に関することが多く出てきます。ジャレド・ダイアモンドは名著「銃・病原菌・鉄」の中で、ヨーロッパ人がアメリカ大陸を征服できたのは、アメリカ先住民がユーラシア大陸の病原菌(天然痘、麻疹、インフルエンザ等)に対する免疫を有していなかったことが主な原因であったことを多くの例を挙げて説明し、異文化交流に関し免疫の重要性を述べています。

そうなのです。異文化交流をやるときの基本は、病原菌だけではなくさまざまなことに関するお互いの「免疫状況」を知り、交流を深めることだと思います。お互いの状況を熟知しないで交流すると、下痢で悩んだり、国が亡びたりすることになりかねません。

今回はラオスを代表する料理、カオピヤックの話から大きく飛躍してしまいました。

(建野/㈱ティーエーネットワーキング)
2013.11.11