The scene

パクセー便り#4
「ラオス国母子保健統合サービス強化プロジェクト」
へ派遣中の建野技術顧問からのお便り

 

パクセーはラオスで2番目に大きな街で、チャンパサック県の県庁所在地。
プロジェクトの事務所は同県保健局・母子保健課内に置かれています。

健康教育活動



「母子保健統合サービス強化プロジェクト」では、健康教育活動を積極的に取り入れており、各県で幅広く実施されています。その中で、セコン県におけるヘルスプロモーション活動は効果が上がっていると評価されています。先月、チャンプサック県並びにサラワン県を担当している日本人専門家がセコン県のヘルスプロモーション活動の視察を行い、セコン県の活動は、病院が主体となっている活動で、「予防」だけでなく「治療」に関する活動が多く取り入れられており、両県の担当者に非常に参考になると考え、チャンプサック及びサラワン県の担当者の視察を計画しました。チャンプサック県からは3人、サラワン県からは6人が参加しました。視察報告を兼ねながら、本プロジェクトで実施しているヘルスプロモーション活動を紹介します。

10月24日に行われたヘルスプロモーションデーには150人以上の参加がありました。県病院玄関脇にJICA供与のテントを張り、この中で、ピクチュアルチャートやビデオを使っての健康教育を受け、一部は、テント脇の臨時診察机や病院内の産科診察室、予防接種室で健康診断(小児)、妊婦健診、予防接種を受けていました。受診記録、接種記録はそれぞれが持参した健康手帳に記入されます。病院の外来スタッフや母子保健担当スタッフ並びに女性同盟(Women’s Union)のスタッフも参加し、手伝っていました。一部には、駄菓子、カオピヤック、ジュース等が準備されており、希望者に配布されています。これは、赤十字社からの援助と聞きました。

ヘルスプロモーションデーでは、健康教育で妊産婦・小児健診、予防接種、家族計画の重要性を説明することで、健康に対する意識の向上と病院受診率の改善を目的としています。セコン県におけるヘルスプロモーションデーは、県並びに郡病院母子保健課が中心となり、保健局の母子保健課はこれをサポートする形で実施されています。今回視察したヘルスプロモーションデーは、県病院・母子保健課が担当し、多くの病院スタッフが参加して実施していました。セコン県・県立病院におけるヘルスプロモーションデーの特徴を、視察後の感想という形で以下に挙げてみました。

・ヘルスプロモーションデーは、毎月一回開催し、非常によく組織されている。
・ヘルスプロモーションデーは広く住民に認知されるようになっており、県保健局でも重要視するようになっている。
・健康教育の後に、病院の外来で乳幼児健診、妊産婦検診、予防接種、を無料で実施している。
・病院が中心になって実施している活動であり、上記の健診等は、県病院外来が全面的に担当している。
・女性同盟との協力関係が築かれており、住民への連絡、村長との協働等を行っている。
・健康教育では、妊産婦・小児健診、予防接種、家族計画の重要性を詳細に説明し、健康に対する意識の向上と病院受診率の改善を目指している。
・ヘルスプロモーションデーの前後に組織者はミーティングを繰り返し行い、次回にフィードバックを行い、より良きヘルスプロモーションデーを目指している。

現在のヘルスプロモーションデーの問題点や感想として、主催者である病院母子保健課課長やチャンプサック県並びにサラバン県の視察者から以下のような点が挙げられました。

・健康教育を行うことができるのが母子保健課長のみであり、他のスタッフの育成が必要である。
・ヘルスプロモーションデーに参加しない者が多い。
・ヘルスプロモーションデーの意義を認識している者が少ない。
・配布している健康手帳を持ってこない者がいる。
・健康教育の内容が多彩を極めており、短時間で理解することが難しい。
・全てのサービスを無料で提供していることを評価しながら、チャンプサックやサラバン県に直ぐに導入することは難しい。
プロジェクトで実施している健康教育活動は、セコン県、アタプー県の2県とチャンパサック県、サラバン県の2県では内容が少々異なっています。前者では、県病院、郡病院の母子保健課が中心で、子どもの教育も含まれていますが、後者では、州保健局の母子保健課が音頭をとり、子どもに対する教育は含まれていません。セコン県、アタプー県では、ヘルスプロモーション活動と呼び、チャンパサック県並びにサラバン県では情報・教育・コミュニケーション(Information Education Communication: IEC)活動と呼んでいます。

このような活動をヘルスプロモーションの観点から眺めてみました。WHOは1986年のオタワ憲章において、ヘルスプロモーションとは、「人びとが自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」とした、新しい健康観に基づく21世紀の健康戦略を発表しました。「すべての人びとがあらゆる生活舞台-労働・学習・余暇そして愛の場-で健康を享受することのできる公正な社会の創造」を健康づくり戦略の目標としています。従来の医学的アプローチから社会科学的アプローチを重視したもので、「健康生活の場づくり」を目指しています。

当初、「ヘルスプロモーションデー」なるものを聞いたとき、WHOのオタワ憲章を思い出し、正直な話、少々「違和感」を感じました。しかしながら、活動を知るにつれ、「違和感」が薄れてきています。島内等のヘルスプロモーションのポンチ絵(下図)をもとに検討してみました。「地域活動の強化」としては、ラオスの村落で中心となっている女性同盟を巻き込み、地域活動に取り組んでいますし、「健康的な公共政策づくり」としては、県の保健局と一緒になって政策作りに関与しようとしています。一方、治療重視から予防重視へと「ヘルスサービスの方向転換」を図りながら、住民の母子保健に関する「個人技術の開発」を行っています。このように考えてくると、プロジェクトで行っている「ヘルスプロモーションデー」なるものはオタワ憲章の精神を取り入れた方向に向かった活動といってもいいのではないでしょうか。

唯、一つだけ私の中ではっきりしない(悩んでいるのは)、「健康を支援する環境づくり」です。ラオスの農村部では、いわゆる近代的文化と相反する伝統的文化の環境の中で生活している人びとが多くいます。彼らの文化の中では、「お産」や「病気」に対する考え方が我々と大きく異なる環境下にあります。このような中での「健康を支援する環境づくり」とはどのような環境を作ればいいのでしょうか。我々の常識を押し付けるような環境づくりでは、「支援」することにはなりません。現地の人たちと信頼関係を作り、一緒になって作る以外にないと考えていますが、「言うは易し、行うは難し」の状況です。


(建野/㈱ティーエーネットワーキング)
2013.12.25