The scene

パクセー便り#5
「ラオス国母子保健統合サービス強化プロジェクト」
へ派遣中の建野技術顧問からのお便り

 

パクセーはラオスで2番目に大きな街で、チャンパサック県の県庁所在地。
プロジェクトの事務所は同県保健局・母子保健課内に置かれています。

ローカルスタッフ



「母子保健統合サービス強化プロジェクト」は、チャンプサック県、サラワン県、セコン県、アタプー県のラオス南部4県で活動を行っています。2名の長期専門家がそれぞれ2県を受け持ち、週の大半を現場に出かけ、泊まり込みでの活動が多くなっています。各専門家には、通訳兼秘書並びに運転手が常に同行しています。現在プロジェクトには、通訳兼秘書4人、運転手2名の計6人のローカルスタッフがいます。通訳業務は、ラオス語⇔英語で、その他連絡等の秘書的役割も行っています。有能なローカルスタッフの存在はプロジェクトの成否に大きな役割を担っているといっても過言ではありません。

しかしながら、本プロジェクトでは、ローカルスタッフの雇用に四苦八苦しています。一旦採用しても、長期に働いてくれる人が少ない環境にあります。もともと、ラオスの中でもパクセーは田舎で、ビエンチャンに比べても英語ができる人が珍しく、優秀な人はさまざまな援助関係者から、有利な条件で引き抜かれてしまうことも多い土地柄です。いかにして優秀なスタッフを確保するか、調整員をはじめとする専門家は苦労しています。

プロジェクト活動にローカルスタッフは必須です。特に、カウンターパートと専門家が共通の言葉を持たない地域でプロジェクトを実施する際には、間で橋渡しをする人が必須です。ローカルスタッフは、カウンターパートの考えていることやニーズを的確に専門家に伝え、一方、専門家の考えや知識をカウンターパートに分かりやすく伝えることが求められます。そこには、言葉ができればいいという以上のものが必要です。専門家とローカルスタッフはお互いの立場を理解し合える関係が求められていると思います。そのためには、時間が必要ですが、それ以上に良い関係作りのためにお互いに努力しなければなりません。多くの場合、ローカルスタッフは専門家に比べて若く、経験も豊富ではありません。そのような若者を育てるのも専門家の仕事だと私は考えていますが、「技術移転活動」ではないと反対する人もいます。しかしながら、育った若者たちは、専門家の技術移転活動に「触媒的役割」を果たしてくれると私は信じています。

私は、多くの国でローカルスタッフの手助けを得ながらプロジェクト活動を行ってきましたが、今振り返ると、優れたローカルスタッフに恵まれ、カウンターパートたちと良好な関係を築くことができました。ベトナムでは、ベトナム語⇔英語の通訳を主としたスタッフでしたが、時間が経つにつれて、私が一言いうと、私の意図することを伝えてくれるようになりましたし、カウンターパートたちの考え方もよく教えてくれました。彼女はプロジェクトの開始時からスタッフとして働いていましたので、カウンターパート側のさまざまな情報を教えてくれましたし、専門家側の相談にもよく相手をしてくれました。カウンターパート側と良い関係を作ることができ、技術協力が成功裏に終了できたのもローカルスタッフの果たした役割は大きいものがあったと考えています。

中国での例ですが、中央のカウンターパートが専門家と一緒になって地方の人を研修し、能力の向上を図るというデザインのプロジェクトでの話です。デザインに反して、中央のカウンターパートに恵まれず、カウンターパートと一緒になって現場の指導をするということができませんでした。苦肉の策として、中国語⇔日本語として雇われたスタッフが、幸い技術力もありましたので、本来カウンターパートに技術移転すべきところをこのローカルスタッフを指導しました。幸い、彼は我々が伝えようとしたことに関心を示し、積極的に学んでくれました。我々の活動に共感し、学習した彼と一緒になって現場での技術移転活動を実施した次第です。現場では、通訳業務をやりながら、カウンターパート業務もやってもらった訳です。専門家のみで指導するより、コミュニケーション能力に長けたものと一緒にやる効果は大きいものがありました。その上に、彼は、現場の文化、行動様式にも我々外国人よりもはるかに通じています。このようなローカルスタッフと協力することは、専門家がいわゆる通訳を介して伝え、知るよりも、はるかに効率的かつ効果的なコミュニケーションができました。

私は、ローカルスタッフは通訳業務に限らず、専門家とカウンターパート(現場)を結びつけるに大きな役割を果たすとものと信じています。専門家チームと一体化したローカルスタッフの存在はプロジェクトの成否に大きく影響するのではないでしょうか。専門家の技術移転に触媒的役割を果たしてくれるローカルスタッフは、「ソーシャルキャピタル」の一つといえます。ただ、プロジェクト開始時からそのような役割のできるスタッフは非常に少ないと思います。プロジェクトで、意識的に育てなければなりません。プロジェクトマネージメントの大きな課題ですが、まず、我々専門家がこのことを認識し、周辺の関係者に広めていく必要があるのではないでしょうか。

最初に述べましたが、母子保健統合サービス強化プロジェクトでは、長く続くローカルスタッフの確保に苦労しています。その原因が、ラオス側にあるのか、専門家側にあるのか、それとも別の原因があるのか分かりませんが、より一層の「育てる」努力をしてみたいと思います。現在のプロジェクトの協力残り期間は、1年半弱しかありませんが、「信頼関係」と「絆」の育成は、現在のプロジェクトにはもちろんのこと、次のプロジェクト、次の協力に何らかの形でつながるのではないでしょうか。この積み重ねが、大きな「ソーシャルキャピタル」が存在する社会になるものと信じます。

(建野/㈱ティーエーネットワーキング)
2014.1.15