パクセー便り#10 「ラオス国母子保健統合サービス強化プロジェクト」 へ派遣中の建野技術顧問からのお便り
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パクセーはラオスで2番目に大きな街で、チャンパサック県の県庁所在地。 プロジェクトの事務所は同県保健局・母子保健課内に置かれています。
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ヘルスセンターを中心とした地域活動
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ラオスにおける保健医療体制は、図に示すように県病院、郡病院、ヘルスセンター(HC: Health Center)となっており、県病院は県保健局の、郡病院は郡保健局の、HCは郡病院並びに郡保健局の管轄下にあります。
2006年、保健大臣はHCに関する業務に関する通達を出しています(Decree of Minister about Management and Operation of HC) (i) 。これによると、HCは複数の村の中に設置され、診察室や入院施設を備え、予防活動(啓蒙活動を含む)や初期治療を行うと定義されています。HCは、3,000~5,000人を対象とし、医師を配置し、簡単な検査室と4~5床のベッドを有するAタイプと1,000~3,000人を対象とし、補助医師と2~3のベッドを有するBタイプとに二分されています。HCは10前後の村を管轄しています。村の中では婦人同盟(Women Union)や母子保健委員会(Committee for Mother and Child Care)を通して村当局と連携しています。村(Village)には数人のヘルスボランティア(HV: Health Volunteer)が配置されていますが、HCや郡保健局の直接の管轄下にはありません。
HCに課せられた役割は広範なものがあります。管轄する村々の公衆衛生活動(住民の健康教育も含みます)、母子保健活動(予防接種、栄養を含む)、初歩的な診断・治療活動、村並びにHCの保健医療データ(人口統計を含む)の収集及び報告、HV等への支援、医療品回転資金(Revolving Drug Fund) (ii) の管理、村の公衆衛生活動やアウトリーチ活動等々多彩な活動が求められています。HCは、ラオスにおける地域の中核的機関であることが期待されています。
「母子保健統合サービス強化プロジェクト」では、HCの機能強化も協力の一環として大きな位置づけを占めています。特に、プロジェクトの成果の一つに挙げられている「社会動員、住民協力、住民啓蒙活動強化」「アウトリーチ活動の支援」ではHCは重要なアクターです。県レベルで始まった健康教育活動(IEC(情報教育)活動、ヘルスプロモーションデー活動(HPD:Health Promotion Day))は、HCレベルでも定期的に実施されるようになっています。「社会動員、住民協力、住民啓蒙」活動は、地域住民との連携無しには実施が困難であり、「住民」と一番近い距離にあるHCの役割は大きいものがあります。現在、HPDやIEC活動は、村長や婦人同盟の協力を得ながら実施され、コミュニティの協力が必須である活動となっていますが、実施するに際して、HCや郡保健局から村(local authorities)への依頼(指示?)に従って実施されており、「トップダウン」の形をとっています。
本プロジェクトと同じ南部4県(アタプー県の替わりにサバナケット県の4県が対象)で実施されている「コミュニティ・イニシアティブによる初等教育改善プロジェクトフェーズ2 (iii) (CIED II:Community Initiative for Education Development Project Phase II)」では、保健医療プロジェクトが直面していることと同様な問題、すなわち、貧困に起因する課題(教育の重要性に対する認識の低さ、季節労働等)、教職員の質と量の問題、インフラの不備、機器類の不足不備、行政能力が不十分、予算が不十分等々のラオスが抱える「農村格差」問題のなかで教育改善に取り組む教育スポーツ省(MOES:Ministry of Education and Sports)の活動をサポートしています。MOESは、各村に村落開発委員会(VEDC:Village Education Development Committee)を設置し、コミュニティの参画を得ながら学校改善を促しています。VEDCのメンバーは、村長、長老、校長、先生、女性同盟、男性同盟、PTAから構成されており、VEDCが主体となって学校改善計画の策定・実施ができるような技術移転が行われています。VEDCでは、PCM(Project Cycle Management)を用いたワークショップを実施し、――もちろん農村部の人たちが取り組めるように変更は加えていますが――村の状況やニーズを反映した学習環境や教育指標が作られるようになっています。多くの村で、村人たちは、ワークショップに熱心に取り組んでいるとのことです。これまでにCIEDIIはMOESと協力しながら、参加型ワークショップのトレーナー(ファシリテーター)育成に取り組んできた成果が、現場で活かされているものです。「ボットムアップ」の非常に良い例ではないでしょうか。
現在、我々が取り組んでいる「社会動員、住民協力、住民啓蒙」事業では、HPD活動やアウトリーチ活動を行うに際して、必要と思われる手法、システム、質の改善・強化等を論じてきましたが、コミュニティ活動や「住民参加」の考え方の醸成・強化の観点からの取り組みは少なかったと思います。サービスを提供する側の強化・改善は当然必要ですが、同じように、サービスを受ける側の態勢づくりも重要です。HCを中心にして実施されているHPD活動やアウトリーチ活動を通して、これらの活動が行政から一方的に指示されたものではなくて、コミュニティ活動の一つであるという住民の「行動変容」を起こすような成果を期待したいものです。我々はカウンターパートたちのオーナーシップの醸成を強調してきましたが、サービスを受ける側のオーナーシップの醸成も考えていくべきだと思います。また、「住民参加型」の地域活動が広がることにより、村長や教育者や宗教指導者のような有力者に限らず広く住民を巻き込むことで村のさまざまな情報や「知恵」へのアクセスもしやすくなります。「『健康』は、HCや病院のものではなくて、コミュニティ自身のものである」という認識をもてるような村づくりを目指したいものです。
CIEDIIの成功は、保健医療分野でも大きな励みになります。保健医療分野では、各村に母子保健委員会があります。ここの活動を強化・改善することに取り組む時に、CIEDIIのVEDCの活動は大いに参考になると思います。また、私は、日本が戦後の農村開発で取り組んだ経験も大きな教訓になるものと考えています。日本でも中央政府レベルでさまざまな縦割りプロジェクトが作られましたが、地域の現場では、保健婦(厚生省)、生活改善普及員(農林省)、学校保健(文部省)、学者(学会)、婦人会、青年会などが協力してそれぞれの事業に取り組んでいました。多くの事業は、小学校を中心に展開し、教師は地域の行事に積極的に参加していました。校庭に並ばされて煎じられた海人草 (iv) の液体を、鼻をつまみながら飲まされ、次の日には何匹回虫がでたと友達と自慢しあっていた昔々を思い出します。戦後、日本の現場における包括的アプローチを実践し、成果をあげたことが、日本では、「農村開発が経済開発に先んじた」といわれる大きな要因になっています。
(i) 県病院に関しては、2009年12月に、郡病院に関しては、2010年7月にそれぞれ”Agreement: Implementation and Operation of Provincial Hospital”、”Agreement: Implementation and Operation of Provincial Hospital”として通達が出されている。 (ii) 医薬品回転資金(Revolving Drug Fund):1987年マリ共和国の首都バマコで開催されたアフリカ諸国の保健大臣会議で、プライマリ・ヘルスケア(PHC)や母子保健サービス等の費用を受益者負担とし、そこで回収された資金を地域で管理し、PHCをエントリーポイントとして保健医療サービスへのアクセスを向上・維持させようとする構想がバマコ・イニシアティブとして採択された。医薬品が必要経費の大部分を占め、公的部門の一次保健医療施設における医薬品不足が住民による同施設の利用率低下の原因となることから、円滑な医薬品供給を目指す医薬品回転資金(RDF)システムがコミュニティー・ファイナンシングの代表的手法として注目されている(国際保健医療学会『国際保健用語集』、2013年)より引用。 (iii) CIEDIIの情報に関しては、JICAホームページで見ることができる。 http://www.jica.go.jp/project/laos/013/outline/index.html (iV) 海人草(かいにんそう、まくり):フジマツモ科の紅藻。暖海の岩礁に着生し、高さ5~25センチ。体は不規則に枝分かれし、剛毛状の小枝で覆われる。海人酸(かいにんさん)を含有し、煎じ汁を回虫駆除薬とする。(大辞泉) (建野/㈱ティーエーネットワーキング) 2014.10.9
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